百年、再生の我無し

40歳からの人生やり直し。

労働組合の限界(4)

それから何回か団交を重ねたが、まったく話が通じないのにはほとほと参った。

あるとき、組合員に対して、現在の月給の額がいくらか、というアンケートを取ったことがあった。社員10人~99人の企業の、新入社員の初任給の全国平均は166,000円なのだが、前の会社ではそれを下回る社員が、アンケートに回答した35人中10人いた。(もちろん、みな入社から何年もたっている。)
また、基本給が20万円以下の社員が全体の87%を占めていた、30代、40代の社員も多くいるにもかかわらず、である。
そのアンケートの集計結果を持参して、団交の席でそれを読み上げた後の、社長の感想は次の通りだった。

「そのアンケートの結果は確かなのか。」
「給与明細から転記してくれと要請しているので、確かだと思いますが。」
「それ(アンケート)に答えた人は常識人なのか。」
「入社面接を経て社長が採用したんですから、常識人でしょう。お疑いになるなら、給与の確実なデータはそちらにあるでしょうから、調べてみればすぐわかるのではないですか。」

アンケートには自由回答欄も設けていて、そこには「実家を出て独立したいが金銭的に無理」とか「年収200万円台、給与が低すぎて結婚できない」などと書かれていた。
それを読み上げても、

「生活に困っているという場合、その当人にもそれなりの原因があるのではないか。浪費をしているとか。」
「…月給が15万円以下でもですか。」
「そうだと思う。自慢じゃないけど、私は社会人になってから、お金で困ったことがないからね。」

またあるときは、県の労働局のデータをもとに、前の会社と同規模・同業種の企業の基本給の平均と、前の会社とのそれとを比較したことがあった。他と比べれば明らかに低いのだった。
その結果も団交の席上で見せたことがあった。その時の反応はこうだった。

「この資料は何を元にして作成したのか。」
「県労働局の統計データを基に作成しました。」
「IT業界で、かつ、当社くらいの規模で、こういう数値になることはあり得ないと思う。」
「その数字は、情報処理業界の、10~99人の規模の企業の統計をもとにしていますから、それについて疑義がおありになるということは、つまり、統計そのものが疑わしいということですか。」
「そういうことになるね。」

とにかく、自分に都合の悪いデータは一切認めない。それも、何らかの数字の裏付けをもとに言っているのではない。ただ、「こんな数字は嘘だ、なぜなら、俺が嘘だと思うからだ」ということを言っているにすぎない。

こういうことも言っていた。「社員の給料を上げるにはどうすればいいか、それは、社員一人当たりの売上を上げることだ。」だからお前ら頑張って売り上げを上げろ、と言いたいらしいのだが、それは社員だけではなくて、経営側の努力も必要だろう。
そのくせ、こと経営努力などを問いただそうとすると、言い訳に終始するのだった。いわく、リーマンショック後仕事が激減した(これを一体何回聞いただろうか)。いわく、震災だ、タイの洪水だ、TPPだ、秋葉原の事件だ(一体それの何が関係するのか)、いわく、中国だインドだ…

そうはいっても、別に赤字になってるわけじゃない、利益はちゃんと出てるし、内部留保だってかなりたまってるでしょう、と(リサーチ会社から得たデータをもとに)疑問を投げかけると、途端に逆上する。
利益をどう処分するかとか、内部留保をどうするか、というのは経営側の判断であって、従業員にどうこう言われる筋合いのものではない、口を出さないでほしい…
そんなに内部留保をため込んでどうするのですか、具体的な投資先とかを考えているのですか、と聞いてもまったく漠然としている。いや、具体的には考えてないけど、いつか、何かの時のためにね。


情も通じず、かといって具体的なデータに基づいて論理的に話すこともできず、経営方針を問いただしても要領を得ず、話に詰まれば逆ギレ…

(続く)